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核をめぐる論議の課題【思考の枠組み】 [核と平和と田母神氏]

1 始めに
8.6田母神講演会」「たかじんのそこまで言って委員会」そして「日本のこれから 核」と、日本と核の関わりをめぐる論議が賑わっている。
僕はこういった論議が盛んとなることはとてもよいことであると思う。

しかし、なかなか現実の論議において、それぞれの主張がかみ合っていないのも事実だ。
その原因を僕は
一方は国際の力学すなわち現実
他方は被爆の恐怖すなわち感情

と表現した。
勿論これが大きな原因であるとしても、更に感じていることを列挙すると。
・思考の枠組み(時期的範囲や思考の要素)の差異
・思考の筋道の差異
・価値の評価の仕方差異

このうち、今日は「思考の枠組み(時期的範囲や思考の要素)」について考えたい。

2 思考の枠組みモデル
まずはこの図を見ていただきたい。
僕が念頭に置いている思考の枠組みのモデルである。
クリップボード02a.GIF
●一番上の矢印は時系列を示す。
つまり左から右に向かって現在から近い将来(数年~十年後くらい)、そして遠い将来(数十年後)に向かっていく。

●矢印の下に情勢を示すボックスが並んでいる。
これも時系列に左から、「現在の情勢」「近い将来の情勢」そして「遠い将来の情勢」と並んでおり
それぞれのボックスには、当時の情勢と将来の予測からなり、国際環境、国内の政治・経済・外交・防衛などの要素が含まれる。
また、近い将来、遠い将来となるにつれて不特定要素が増えることから、情勢の推移に従って起こりうる情勢パターンは増えていく。
このモデルでは「近い将来の情勢」を「N-1~3」の3個の情勢パターンとして、「遠い将来の情勢」を「F-1~6」の6個の情勢パターンとして表現している。

核に関わる情勢もこれに含まれ、例えば、
F-1は「世界の核廃絶が確立した情勢」
F-2は「世界が核廃絶に向かっている情勢」
F-3は「現在のNPT体制が維持されている情勢」
F-4は「現在のNPT体制が揺らいでいる情勢」
F-5は「世界各国が国際的な管理の下に等しく核武装しようとする情勢」
F-6は「世界各国が無秩序に核武装しようとする情勢」
勿論、他の要素(東アジアのパワーバランス、日米同盟、米国の世界プレゼンス、世界経済、自由民主主義の浸透の具合を含む国際環境と国内の情勢)もこれに付随してくる。

●一番下に国家戦略パターンを示すボックスが並んでいる。
これも時系列に左から「現在の国家戦略」「近い将来の国家戦略(N-1~3)」「遠い将来の国家戦略(F-1~6)」として表現している。
これら国家戦略は、その当時の情勢に適合しながら、国家の目標と求める世界像を明らかにしてそれを実現するために取るべき政策を明らかにする物である。
※例えば、近い将来の情勢パターン「N-1」に対しては国家戦略パターン「N-1」が対応する。
  また、遠い将来の情勢パターン「F-1」に対しては国家戦略パターン「F-1」が対応する。
核に関わる政策もこれに含まれる。
例えば例の選択肢でもいい。
〈1〉核の力に頼るべきではない。
〈2〉アメリカの核の傘に守ってもらう。
〈3〉核兵器を持つべきだ。


3 このモデルを踏まえてこれまでの論議を振り返ってみると。
「〈1〉核の力に頼るべきではない。」を主張する人は以下の2つに別れるのではないだろうか?
〈1-1〉当面、近い将来、遠い将来の全ての国家戦略パターンにおいて全て〈1〉を選択する人
〈1-2〉当面は〈2〉(現状維持)として、将来のある時点で全ての国家戦略パターンが〈1〉になるという人


また、「〈3〉核兵器を持つべきだ。」を主張する人はかなり多様にわたるのではないだろうか?
〈3-1〉当面の戦略から核兵器を持つべきだという人
〈3-2〉近い将来の戦略として核兵器を持つべきだという人
〈3-3〉遠い将来の戦略として核兵器を持つべきだという人
更に
〈3-4〉遠い将来の情勢によっては核兵器を持つ国家戦略をとるべきだという人。例えば上の例では「F-5とF-6では核兵器を持つ」など


最後に「〈2〉アメリカの核の傘に守ってもらう。」を主張する人は更に多様にわたるのではないだろうか? 少なくとも「当面」は〈2〉であろうけれど、その先は様々なパターンに分かれるのではなかろうか?
特に日米同盟のあり方によって影響を受けるから、近い将来と遠い将来の全ての戦略パターンでこれを維持することは難しい。

4 小括
このように〈1〉〈2〉〈3〉に括っても、相当に立場の異なる者同士のグルーピングとなり、同じグルーブでも他のグループ間でも、それぞれの論者が見ている時期や情勢の設定が異なるから論議がかみ合わないのだと思う。
だからといってこれまでの論議が無意味だったというわけではない。
このような論議がなされたから、こうやって更に整理して考えようという発想が生まれて来たのだ。

また、今回紹介したモデルも、これが最良のモデルとは限らない。
そもそも我が国に「国家戦略」が存在しないことが最大の問題なのだ。

選挙のマニュフェストも四年間が適用範囲?ばかばかしい…
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コメント 12

法典

こんばんは。
「渚にて(On the Beach)」という映画(TVドラマ)を見ると、とても作り話とは思えない、現実味がありました。

私は、今は核を保有している国家も、いずれ手放してくれるだろうと信じています。
また、それを可能にするのは例えばどこかの国の大臣だったり、国家元首だったりではなく、市井の人々が声を合せることで可能になるのだと信じています(甘いかな?現実を知らなさすぎ?)。
by 法典 (2009-08-18 23:39) 

井関 太郎

法典さん、コメントありがとう御座います。
僕の意見を申しますと…その視点は各々の責任の範囲です。

市井の人々(国民)と国家元首(或いは首脳)…その責任の範囲はどうでしょう。
人々は自ら…そして自ら保護する家族に対して責任を負います。

他方…首脳は国民全体に対して責任を負います。(民主主義の国ならば)
その責任は…国民全体の「安全を担う」ことです。

「核武装の是非」の問題は「国民の安全を担う」という目的を実現するための「手段の是非」の問題だと思います。

だとすると国民は「結果」であるところの「安全」がまず求めるべき事です。
他方…国際情勢を無視して国民が首脳の「手段」に不当に制限を加えることによって…結果において自らの安全を危険にさらす事もあるかも知れません。

だから…核武装の是非につき…どちらの立場に立つにせよ…冷静に思考して論議することが大切なのだと思います。
by 井関 太郎 (2009-08-19 00:08) 

まさみん

う~んと。考えさせられる記事ですね。議論は、それぞれの論者の立場、は拝啓、思想、価値感が異なるので単に枠にはめることはできないのですね。国家戦略かあ。4年任期の政治家が責任を持って国の未来を担うことができるのか考えさせられます。
でも傍観者でしかない自分自身をもっと反省します。
by まさみん (2009-08-19 09:13) 

井関 太郎

まさみんさん、ありがとうございました。
反省だなんて…傍観者である点は僕だって一緒です。

森さんが首相だったとき…「IT戦略だ!バージョン4だ」のようなことを言っていたと記憶しています。
日本の防衛戦略は「防衛計画の大綱」がそれにあたるのかも知れません。
でも…それらの上位概念として国家の機能を横断的にとりまとめる「国家戦略」がないのはどうかと思います。
by 井関 太郎 (2009-08-19 22:57) 

やまがたん

核問題は難しいんですよね
占守防衛のために核を持つというよりも
核を持つことにより、世界的な発言権を持ち
有利に交渉を進めるカードに使おうとしている
そんな風に私は感じております・・・・
ご訪問ありがとうございます
( ゚∀゚)o彡°応援ポチっと☆ランキングゥ☆
by やまがたん (2009-08-20 06:05) 

井関 太郎

やまがたんさん、ありがとうございました。
「冷静な思考」とは、国際の環境を踏まえて、核をもつ場合ともたない場合のそれぞれの効用とリスクをもれなく明らかにして整理することで、我が国の進むべき方向と取るべき施策を明らかにすることなのだと思います。

実はこれ、この「冷静な思考」って核の問題だけじゃないのです。
教育問題・歴史認識問題・靖国問題など、田母神氏が取り上げた全ての問題に共通して必要なのです。

つまり「冷静に思考して断固として対応」すべきだ。
それをしないで問題が起こる度に「事なかれ」で対応したからいまのような問題になっている。

そこを思ったとき…氏が本当に言いたかったことはそこなのかも知れないと思う今日この頃です。
by 井関 太郎 (2009-08-20 07:44) 

こけもも:

ほんの10年前まで「核武装の議論」さえ出来なかった事を考えると、少しはましになったのかも知れません。
by こけもも: (2009-08-20 09:55) 

SilverMac

ご訪問アリガトウございます。過去記事も見せていただきました。過剰な拒絶反応にはウンザリです。核論議はすべきでしょう。
by SilverMac (2009-08-20 10:13) 

U3

様々な問題を明確にして議論する事は良い事です。
by U3 (2009-08-20 13:10) 

U3

ところで憲法九条問題もその議題に入れて置いてね。
というより太郎さんには核よりも九条問題を取り上げて貰いたいなぁ(=^_^=)
今のままでは自衛隊の存在も自衛隊の海外派遣も違憲ですよ。
この議論無くして日本の将来はあり得ないと思います。
by U3 (2009-08-20 13:18) 

井関 太郎

こけももさん、SilverMacさんありがとうございました。
そうですね、論議をすること。
そして、核という最もセンシティブなテーマで論議ができるようになれば、歴史や教育や天皇制などのセンシティブなテーマも更に自由闊達に論議ができるようになることでしょう。

U3さん、ありがとうございました。
いきなりおねだりモードですか?
くすぐったいです。
まあ、論議が発散しないよう、ぼちぼち行きましょう。
by 井関 太郎 (2009-08-20 20:38) 

林檎

井関 太郎さま
女将 さなえ様

いつもありがとうございます。
こんなところにコメントしてごめんなさい。


> 轟さんへ、

あなたのサイト(HPやブログ)観たいのですが、
まだでしょうか?

by 林檎 (2009-09-22 18:05) 

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